大人は虫歯対策よりも歯周病対策

厚生労働省が3年ごとに実施している「患者調査」の平成29年(2017)調査によると、「歯肉炎及び歯周疾患」の総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は、398万3,000人で、前回の調査よりも66万人以上増加しました。(日本生活習慣病予防協会HPより)

大人が歯を失う原因の1位は「歯周病」です。「う蝕(虫歯)」ではありません。
歯周病は20代から何らかの症状が出始める人が増え、30歳以上になると加速し、60歳を超えるとほぼ全員が歯周病に罹患しています。
歯周病は虫歯と違い、歯を支えている周囲組織がもろくなっている状態ですので歯を1本失う頃になると2~4本くらいは連鎖的に失うことになります。30歳以上は虫歯対策より歯周病対策を行っていくことが重要です。
(大人の「虫歯」は子供の時の虫歯の再発が多く、子供の時に虫歯を作らない、歯を削らない、ことが大切です)

8020運動
歯周病による歯の喪失は急速に進む

歯の本数はご存じでしょうか?ヒトは親知らずの4本を入れて32本の歯があります。「親知らず」を抜いた人でも28本の歯が銀歯など無くそろっている状態が最も好ましい状態です。8020(ハチマルニイマル)運動とは厚生省と日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動です。20本以上の歯があれば、食生活にほぼ満足することができると言われています。
2016年の調査では80歳で自分の歯を20本以上有る者の割合は、初めて50%を超えたようです。しかし、付随するデータに「80歳での1人平均現在歯数は約17本」、というものがあります。
これは「歯がある人とない人には大きな差がある」という事を示しています。日頃の心がけで「歯を一気に失う人」と「歯をそのまま保てる人」に80歳前後で分かれてくることが分かります。
また、「65-74歳では68.9%、85歳以上では25.7%」というデータより「高齢時に歯周病は急速に進み歯を失う人が多い」という事が分かります。

なんでも嚙んで食べることができる?

70歳代の高齢者では20本以上の歯を有する割合が低くなってくるのに対し、「なんでも噛んで食べることができる」と解答され方が多くいます。入れ歯などによって噛む能力が維持されているのかはわかりませんが、「普通の物を食べている」と言っても「スルメ」と「豆腐」には大きな違いがあります。「なんでも食べられる」と回答した人の中には無意識に好んで柔らかい物ばかりを選んで食べていることは無いでしょうか?
「スルメ」を好んで食べようとしていますでしょうか?

歯周病とその進行について

歯周病は歯肉の炎症(歯肉炎)と歯周組織(歯根、歯槽骨)の炎症(歯周炎)の総称です。歯肉炎の場合は治りますが歯周組織には再生能力が無いので悪化を防ぐということが治療の方針になります。

上に歯周病の段階を示しました。
プラーク(歯垢)」という言葉を耳にしたことがあると思いますが、歯の表面を楊枝などでなぞってみると白~黄色の堆積物がついてきます。これがプラークです。1㎎に1億個以上の細菌が生息していると言われています。ブラッシングが不十分であるとプラークの層が厚みを増し、歯と歯茎の奥をぬって侵入していきます。

①歯肉炎

歯周病菌が歯と歯茎の隙間から侵入すると歯肉炎をおこします。ブラッシングの時に血がにじんだりします。
ブラッシングやしっかりとした歯医者でのクリーニングによって炎症は治まってきます。

②初期歯周炎

歯周ポケット呼ばれる溝ができてきます。歯肉はぷよぷよと腫れた状態になります。見た目では分かりにくく出血以外に自覚症状が無いのですが内部では確実に進行しています。

③中度歯周炎

歯を支える骨が溶け始めレントゲンでも確認できます。歯の根元が徐々に見えてきます。歯の揺れ、口臭などの症状が出始めます。

⑤重度歯周炎

もう歯を残すのはあきらめる段階です。治療の目的が「周囲の歯を何本残せるか?」になります。歯並びも悪くなり、膿が出ることもあります。

※参考 実際の歯周病 Gノート2020年6月号より抜粋

70歳代、女性、要介護1

70歳代の夫と二人暮らし。過去20年以上歯科受診の記録なし。「妻の口臭がひどい」と夫の要請で歯科医が訪問診療に向かった。認知症の兆候はない。自身で毎日1回の歯磨きをしているが歯磨き時の出血があるために1分ほどで止めるとのこと。ほぼすべての歯が動揺している。うまく噛めないので柔らかい食品を飲み込むような食事をしている。口臭が顕著で居室には悪臭が漂っている。大量の歯石があり、歯肉の退縮、歯の移動も見られる。
(歯石除去、抜歯、義歯作成を行った)

歯周病の原因と対策の概念

歯周病は進行性の病気ですが、その進行には免疫力が関係しています。歯周病は歯周病菌による感染症ですので風邪と同様に考えると理解しやすくなります。
歯周病の進行は口の中にいる膨大な数の歯周病原因菌と生体防御機構である免疫力の戦いです。免疫力が歯周病菌に勝てば歯周病は発生しません。逆に、免疫力が負けると歯周病が発症します。
歯周病の発症を加速させてしまう因子が3つあります。

①細菌因子

口腔内歯周病菌数、プラークが厚くなればなるほど細菌数は増加します。歯石があればあるほど細菌の数は増加します。歯石は細菌が石化して固着したもので細菌のよい棲み処になります。

②宿主因子

加齢により免疫力が低下するため、歯周病は進行しやすくなります。また、感染症に対する免疫力を低下させるような病気(糖尿病、骨粗しょう症、腎疾患、特別な遺伝子疾患etc.)に罹っていると歯周病の進行は加速します。病気の治療で免疫抑制剤を使用している方も同様です。

③環境因子

喫煙、ストレス、不規則な生活、アンバランスな食事などは歯周病を加速させます。

細菌因子+宿主因子+環境因子<免疫力

の状態を維持し続けることが歯周病を予防するための最善策となります。基礎的な免疫力は加齢とともに下がってきてしまいますので、細菌因子を減らす(歯磨き、歯間ブラシ、歯医者でのクリーニングetc.)、免疫力の維持、基礎疾患の改善、がポイントになります。

歯周病菌が引き起こす病気

歯周病でまず思いつく症状は「歯が抜け落ちて咀嚼が出来なくなる」「ひどい悪臭を放つ」と言ったところでしょうか。歯周病は他の多くの重篤な、命に関わる病気のとの深い関連性が分かってきています。特に歯周病がすすんでいる高齢者では認知症の有る無しがチェックされるほどです。
一見、歯と何の関係もなさそうな病気が、歯周病が原因で発症、あるいは進行する、因果関係があると考えられている病気が100種類以上に上ると言われています。

認知症

2019年にアメリカの研究チームは「アルツハイマー型認知症は歯周病菌が分泌するタンパク質分解酵素が脳内に侵入し、脳の神経細胞を変化させることで発症する」という論文を提出しました。歯周病と認知症の関係は経験的に関係していると言われていましたがそのメカニズムまでが明らかになってきました。

心筋梗塞・脳卒中

2011年に台湾の研究チームが「歯石を除去すると、心臓病や脳梗塞のリスクが下がる」という論文を発表しました。「1度でも歯石を除去した人は除去していない人に比べて心筋梗塞のリスクが24%、脳卒中のリスクが13%減少する。定期的な歯石除去は心筋梗塞、脳卒中のリスクを50%以上下げる」という内容です。台湾で10万人以上を対象に7年間にわたって追跡調査を行った結果でとても信憑性の高い研究となります。

動脈硬化

動脈硬化で以前、言われていたのが「血管の老化」ですが、実際に起こっているのは「血管の炎症」です。歯周病菌は血液を通して全身をめぐります。この状態を菌血症と言います。菌血症はその状態を示す言葉で菌が血液中に入ることです。似たような言葉で「敗血症」というものがありますが、これは血液中で菌が増殖するようになった状態です。敗血症ほどの死に至る強い炎症は起こしませんが慢性的に全身炎症が起こっている状態になります。
歯周病菌は細胞の表面や血管の壁に付着しやすい特性を持っていることから血管への炎症、血管内アロテーム(免疫細胞と油の塊)の形成、動脈硬化や心筋梗塞などとの関連性が示唆されています。
※抜歯後は口腔常在菌が血中に移動、菌血症に一時的にでもなることがあるので治療後3日間は献血をご遠慮いただいております。と日本赤十字社のHPに書いてあります。

糖尿病

糖尿病が進んでいる人は歯周病になりやすく、歯周病が進んでいる人は糖尿病の人が多い。以前から因果関係があるのではないかと考えられています。糖尿病はインスリンがうまく働かなくなる、あるいは出なくなることで血糖値が上がってしまう病気です。感染症に罹るとインスリンの働きが悪くなり血糖値が高い状態が続くことが分かっています。歯周病は全身血管性の感染症とも考えられますのでそう考えると歯周病が血糖値を上げることは不思議ではありません。日本糖尿病学会の診療ガイドラインには「2型糖尿病では歯周病治療により血糖値が改善する可能性があり推奨される」と明記されています。

誤嚥性肺炎

食べ物や飲み物が気管に入ってしまうことを誤嚥と言います。むせることで肺炎が起きるわけではありませんが肺に入った食べ物には唾液・口腔細菌がたくさんついています。この時の細菌が原因で肺に炎症が起こることを誤嚥性肺炎と言います。この誤嚥性肺炎の原因菌の一つが歯周病菌であることが分かっています。誤嚥をしても咳き込むことが出来れば吐き出されるので問題はありませんが、60才を過ぎるころから本人に自覚がないまま気管支の中に唾液が入っていくようになります。それは寝ている間にも起こるようになります。唾液と一緒に菌が大量に入ると肺炎のリスクが上昇します。

関節リウマチ

関節リウマチの患者の関節滑膜部分ではアルギニンというアミノ酸がシトルリンというアミノ酸に作り変えられています。免疫細胞が滑膜上にあるシトルリンを敵とみなし、免疫反応を起こすことで関節リウマチが発症します。アルギニンをシトルリンに変える酵素があるのですがそれが何故、関節滑膜にあるのかが謎でした。
リウマチ患者の関節部分から歯周病菌の一つであるジンバリス菌が発見されたことで研究は一気に進みました。何百種類もある口腔細菌の中で唯一、この酵素を持っているのがジンバリス菌でした。
歯周病によりジンバリス菌が血中を経由して関節滑膜に移動、ジンバリス菌がアルギニンをシトルリンに変えることで関節リウマチが発症していることが示唆されています。歯周病菌が原因の関節リウマチであれば歯周病の治療を勧めることによって関節リウマチの治癒が期待できます。

歯周病の予防・治療の為に

もちろん定期的に歯医者に行ってクリーニングや歯石除去などは必須なのですが普段の生活で歯のケアに必要なことを書いておきます。バランスの良い食事や睡眠などはあまりにも当然のように必須なことなのでここでは割愛します。

「歯を磨く」その意味を思い直す

日本人の95%毎日、歯磨きをしており、1日に2回以上歯を磨いている人は77%、3回磨く人は27%、つまり4人に1人は朝昼晩で歯磨きをしています。これは欧米諸国よりも多く、日本人は歯をよく磨く文化になりつつあります。それなのに日本人成人の80%が歯周病と言われています。
これは「歯を磨くことの本来の目的の欠如」が問題となっています。
「歯磨きの目的は何でしょうか?」と聞くと、たいていの人は「口の中の食事の残りかすを取り除くこと」と解答されます。歯磨きの目的は「プラーク(歯垢、細菌の塊)を除去すること」です。
そしてプラークは歯と歯の間、歯と歯茎の間に好んで集まるという事です。
以上の事よりデンタルフロス・歯間ブラシは必須です。

洗口液で歯磨きいらず?

「リステリン」「モンダミン」「GUM」など洗口液がたくさん販売されています。人によっては「歯磨きするのがめんどうくさいから」と歯磨きの代用品として使われている方もいらっしゃいます。それは間違いです。
洗口液には「洗口液」と「液体歯磨き」の2種類があります(ボトルの裏面を見てください)。「洗口液」は「歯磨きと別に使うもの」、「液体歯磨き」は「歯磨きするための物」なので両方ともブラッシングは必須です。
洗口液が歯磨きを代替えすることはありません。

フッ素入り歯磨き粉について

医薬部外品として1500ppmほどのフッ化物を配合した歯磨き粉が販売されるようになりました。食事の度に酸のチカラによって歯は微量に溶けています(脱灰)。それが唾液で中和され、すぐさま歯にカルシウムなどが取り込まれていきます(再石灰化)。フッ化物はこの再石灰化を促すとともにカルシウムと同時に取り込まれることによりフルオロアパタイトというより、強固な構造をとります。
歯を丈夫にするという目的でフッ化物配合歯磨き粉を使用される方が多いですが、インプラントをしている方は控えた方がよいと言われています。フッ化物がインプラントに使用するチタンを腐食させるという研究報告があります。

当店での歯周病対策方針

歯周病は歯周病菌による感染症です。その菌は血中をめぐり認知症をはじめとする様々な疾患の発症・悪化、口臭の問題、咀嚼の問題を呼び起こします。ヒトの体の中で咀嚼という特別な機能を持った口腔を正常に保つことは全身の栄養状態を左右する問題となります。
前述の通り、歯周病を発症するかどうかは

細菌因子+宿主因子+環境因子<免疫力

で決まってくること。
当店は歯医者ではありませんので直接口腔内のプラークコントロール等を行うわけにはいきませんが、抗炎症、免疫力、血流の改善等を目的としたサプリメントやビタミン類、漢方薬を組み合わせて改善を図ります。
当然、基礎疾患がある場合にはその改善や悪化させないためのご相談を並行して承ります。
歯科医によるクリーニングには出血を伴うものもございますし、抜歯などは口腔細菌が血中に入り込む施術になります。歯医者に行く予定がある方、または歯医者の帰りにでも是非お立ち寄りください。